Summary
批評とは、作品の中から一見したところではよくわからない意味を引き出す(解釈)と、その作品の位置づけや質を判断する(価値づけ)が合わさったものであり、そのために批評を3ステップ{精読(解釈)→分析(解釈、価値づけ)→書く(価値づけ)}に分けて説明している。
読んだあとに読者がより作品を興味深いと思えるような批評がいい批評
精読
フィクションを読むということは、そのごっこ遊び(虚構的真理)のルールに従うのが基本である。正しい解釈はないが、間違った解釈(ルールからの逸脱)は存在する。
ルールに従う → 細かいところまで注目して読む
フィクションは現実と違い展開に必要なことだけを描写するため、注意深くみることで、後の展開を読むことができる
信頼できない語り手 - 物語の語り手が必ずしも正しいことを言っているとは限らないので注意が必要。また作品=作者の考えとも限らないため、作者が伝えたかったことではなく、作品が何を表現しているのかという問いを立てる方が分析しやすい
分析
物語から固有名詞を剥ぎ取り、構造(人物の関係性、タイムライン、話の展開)を抽出し要素に分解し、他作品と比較してみる(ネットワーキング)
書き始める
批評というもの自体が芸術なんだ。そして芸術的創造には批評の能力が含まれていて、そうしたものなしには全く存在しているとも言えないのと同様、批評はその言葉の最も高踏な意味において本当に創造的だ。実のところ、批評は創造的でもあり、また独立して存在しているものでもあるんだよ。 (オスカー・ワイルド「芸術家としての批評家」、The Complete Works of Oscar Wilde, vol.4, p. 153)本書(p.116)
説得力のある批評→一貫性がある→覚悟を決めて切り口を1つに絞ることが大事
まずは作品の情報を簡単に書いてみる
クリストファー・ノーランが監督をつとめた映画『TENET テネット』は二〇二〇年、新型コロナウイルス禍の最中に映画館で公開された。これまでノーラン監督は弟のジョナサンと脚本を共同執筆することが多かったが、前作『ダンケルク』(二〇一七)に続いて本作も単独脚本による作品である。ジョン・デイヴィッド・ワシントン演じる名前のない主人公が活躍する一種のスパイアクションである一方、複雑な展開に満ちた時間SFでもある。
フランス映画『燃ゆる女の肖像』(二〇一九)は女性同士の恋愛を扱った歴史もののロマンス映画である。オープンリーレズビアンであるセリーヌ・シアマが監督・脚本をつとめた。カンヌ国際映画祭で性的マイノリティなどに関する映画に与えられる賞であるクィア・パルムと脚本賞を受賞している。 舞台は一八世紀フランスの島である。画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)が島にある屋敷の主である伯爵夫人(ヴァレリア・ゴリノ)から、娘であるエロイーズ(アデル・エネル)のお見合い用の肖像画をこっそり描いてほしいと頼まれ、本来の目的を隠して島にやってくる。やがて真実を知ったエロイーズとマリアンヌは、この後に別れが待っていると知りつつも情熱的な恋に落ちる。
自分は自由に考えられる人間だという思い込みを捨てるところから楽しい批評が始まります。スポーツでも音楽でも、技術向上のためにはとりあえず既存の型を学び、たくさん練習する必要があります。巨人の肩に乗れるくらいの訓練を積んで初めて、新しいものが生まれます。
批評を書く時の覚悟として大事なのは、人に好かれたいという気持ちを捨てることです。批評というのは作品を褒めることではなく、批判的に分析することです。良いところはなぜ良いか考え、問題があればそれを直視してなぜダメなのか考えるのが批評であり、それを通して作品の価値や問題点が明らかになります。しかしながら問題点を指摘すると、作者は怒るかもしれませんし、またその作品のファンも怒るかもしれません。
もっと学びたい人のための読書案内 ○批評理論についての解説書・教育書 岩本憲児、波多野哲朗編『映画理論集成──古典理論から記号学の成立へ』フィルムアート社、一九八二年 岩本憲児他編『「新」映画理論集成』全二冊、フィルムアート社、一九九八─一九九九年 大橋洋一編『現代批評理論のすべて』新書館、二〇〇六年 亀井秀雄監修、蓼沼正美『超入門! 現代文学理論講座』筑摩書房、二〇一五年 小林真大『「感想文」から「文学批評」へ──高校・大学から始める批評入門』小鳥遊書房、二〇二一年 佐藤亜紀『小説のストラテジー』筑摩書房、二〇一二年 佐藤亜紀『小説のタクティクス』筑摩書房、二〇一四年 バリー、ピーター『文学理論講義──新しいスタンダード』高橋和久監訳、ミネルヴァ書房、二〇一四年 廣野由美子『批評理論入門──『フランケンシュタイン』解剖講義』中央公論新社、二〇〇五年 廣野由美子『小説読解入門──『ミドルマーチ』教養講義』中央公論新社、二〇二一年 フォスター、トーマス・C、『大学教授のように小説を読む方法』増補新版、矢倉尚子訳、白水社、二〇一九年
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精読 フィクション(ごっこ遊び)のルールに従って、細部まで注目して読む。
分析 物語を抽象化して、要素に分解し、他作品、概念とのネットワーキング
書く 覚悟を決めて切り口を1つに絞ることで一貫性を保つ→説得力 まずは、作品の情報から書いてみるとよい。
その他 世間的な評価軸と自分の中での評価軸を分けることで、正直な批評ができる。